八代嘉美さん~Innovation for NEW HOPEへの想い~

八代嘉美さん~Innovation for NEW HOPEへの想い~

日本で最先端の治療法が一日でも早く、継続して届く社会の実現のために、発足したこのInnovation for NEW HOPEプロジェクト。6名の発起人に、現在の取り組まれていることと、それに至った背景についてお伺いするとともに、このプロジェクトにかける想いをお話いただきました。
今回は、藤田医科大学 東京橋渡し研究支援人材統合教育・研究センター 教授 八代嘉美さんです。
インタビュー実施日:2024年3月14日


Q. これまでの経歴と、現在取り組まれていることについてご紹介ください。

私は元々、血液の幹細胞という、一生涯にわたって血液を体の中で作り続ける細胞の研究をしていました。その細胞は再生医療において一番基盤となる幹細胞で、特に長い歴史を持った細胞であり、基礎研究としてもすごく楽しかったです。受精卵を使って作るES細胞、これは人間の体を作る全ての細胞を作ることができる性質の細胞ですが、私がちょうど大学院生のときに「今度はiPS細胞というのができたぞ」と、再生医療自体が社会から非常に注目を浴びる状況になってきました。 

ES細胞は受精卵を使っており、それゆえの倫理的な課題により社会からの反発も多くありました。一方でiPS細胞は皮膚からでも血液からでも作ることができるので、一気に研究のハードルが下がるだろうと言われました。しかし、社会からの期待はすごく高まっているものの、実際の研究はそこまで成熟しているわけではありませんでした。ES細胞自体の倫理的な課題、人々の懸念点もよく理解できますが、それだけではなくて、実際にいろんな人々を救う可能性がある技術だということも社会に知ってもらいたいと思っていました。
 
「科学コミュニケーション」という言葉があります。科学のバックグラウンドを持ち、実際に細胞を扱って研究をしている人たちが社会に対して話をすることで、社会とのハードルを下げ、近づけることができるという思いもあって、人文社会的な研究も始めたというのが私のバックグラウンドです。

Q. 医療に関するマルチステークホルダーや多様な人たちが集まって議論をする場であるInnovation for NEW HOPEにどのような期待をしますか?

iPS細胞ができて社会として再生医療が期待され、新しい法律ができて今年でちょうど10年になります。再生医療として国に承認されたものは増えてきているものの、やはり再生医療は作るにはお金がすごくかかる、ということもよく言われるようになったわけです。かつては再生医療によって慢性疾患の治療コストを下げられると期待されていたのが、今はもう「再生医療は高額」と言われる対象になってきてしまいました。そして、「そんなものには国もお金を出せないのではないか」という話が出てきてしまったという課題があります。
新しい医療をお金の問題で社会に届けられなくなってしまってよいのか。アメリカとかヨーロッパでは製薬メーカーが新しい薬の研究開発を行い申請・承認と進めていますが、日本では研究開発を行わない、多くの新しい薬が日本で申請されなくなっています。このような問題をドラッグ・ラグとか、ドラッグ・ロスと言いますが、再生医療を含む新しい医療が日本で受けられなくなる状況が起こっていて、それは国民にとって良いことなのでしょうか。ない袖は振れないし、医療費の負担、国の負担が減ることは大事かもしれないですが、本当にそれで良いのか、みんなで考えないといけないのではないでしょうか。
このような日本の医療の状況、再生医療、細胞医療の状況について、皆さんと共有したいと思い、このプロジェクトに非常に期待をしています。

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