【難病シンポジウム開催レポート】 Innovation for NEW HOPEシンポジウム ~新生児・小児への希望 遺伝性難病に対するゲノム検査と最先端治療~ ヘルスエクイティの達成に向けた、患産官学で共に描く未来への議論
2025年12月16日(火)、「Innovation for NEW HOPE シンポジウム~新生児・小児への希望 遺伝性難病に対するゲノム検査と最先端治療~」を開催しましたのでご報告いたします。
確定診断までに時間を要する「診断ラグ」や、最先端の治療法にタイムリーにアクセスできない「ドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロス(以下、ドラッグラグ・ロス」)は深刻な問題です。本シンポジウムでは、国会議員、患者・ご家族、医師、シンクタンク、製薬企業など多様な立場の方に登壇いただき、新生児・小児における「診断ラグ」「ドラッグラグ・ロス」の解消に向けた講演や活発な議論がおこなわれました。
前半は厚生労働分野で要職を務める国会議員より、ゲノム検査や創薬イノベーションへの期待についてご挨拶をいただくとともに、新生児・小児ゲノム検査の最前線で活躍する医療従事者や遺伝性難病のお子様のご家族に、難病診断の現状や実体験について講演いただきました。くわえて、市民主体の医療政策を目指すシンクタンクから、難病政策への期待について講演いただきました。
後半のパネルディスカッションでは、患者会および製薬企業の方も加わり、「診断ラグ」を短縮するための新生児へのゲノム検査の普及や、「ドラッグラグ・ロス」を解消するための医療データの活用等についての意見交換、今後の展望等を議論いただきました。
シンポジウムの動画はこちらをご覧ください (https://youtu.be/jM7wBlSg12E)。
開会挨拶
森尾 友宏氏
東京科学大学 理事・副学長・特別教授で、Innovation for NEW HOPE (以下、IfNH)委員である森尾 友宏氏より、開会の挨拶をいただきました。
希少疾患は約1万種類あり、患者数が極めて少ない疾患も多い中、診断までの長期化(診断ラグ)が大きな課題と指摘されました。新生児期のゲノム検査による早期診断が可能になることで、合併症予防や早期治療に繋がるとの期待を示されました。また、治療法が未確立の希少難病は依然として多く、革新的新薬を創出するためには多様な関係者の知恵の結集が不可欠であり、本シンポジウムが、参加者みなさまの学びと意見交換を通じて、より良い社会づくりに繋がると期待を寄せられました。
来賓挨拶
仁木 博文氏
衆議院議員で厚生労働副大臣の仁木 博文氏に、来賓の挨拶をいただきました。
産婦人科医として1,200件以上の出産を担当された経験も踏まえ、出生直後のゲノム検査で早期診断・早期介入が可能になれば、子どもの人生のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)は大きく向上すると指摘。政府が推進する医療DXにより、ゲノム情報と疾病の関係を明らかにし、治療法の開発を加速させるとの考えを示されました。
最後に、「難病・小児慢性特定疾病を抱える患者・ご家族が希望を持って暮らせる社会を実現する」と力強く述べられました。
※仁木 博文氏の挨拶は動画アーカイブからは視聴できません
講演
講演1
「新生児・小児ゲノム解析の最前線」をテーマに、慶應義塾大学医学部 臨床遺伝学センター 教授の小﨑 健次郎氏にご登壇いただきました。
小﨑 健次郎氏
始めに、エクソーム解析なら3日で解析結果のフィードバックが可能となっていることなどのゲノム検査の進歩や、ゲノム情報による不当な差別禁止などの、ゲノム医療を推進するための制度が整備されつつある現状を紹介されました。
続いて、ゲノム検査プロジェクトの成果として、未診断疾患イニシアチブ「IRUD」では、1万超の家族のゲノム解析が行われ、その48.1%で原因遺伝子を同定。その過程で新たな病気も発見され、ドラッグ・リポジショニング等、治療法の開発も進んでいることを報告されました。さらに、「1歳未満に亡くなる子どもの35%は稀少疾患に起因する」点にも触れ、ゲノム検査による迅速・精確な診断が必要と紹介。重症新生児に対する全ゲノム解析事業 「Priority-i」では、約半数で遺伝学診断が確定しているなどの成果を紹介されました。
出生後で症状有の患者さんに対するゲノム検査の意義は高く、重症新生児迅速ゲノム診断全国ネットワークが形成されていることからも、公的医療保険の下での臨床実装に向けた期待が示されました。
講演2
「患者・家族視点で考える早期診断の重要性と新薬への期待」をテーマに、遺伝性疾患「脊髄性筋萎縮症 (SMA)」のご子息を持つ、一般社団法人SMA 家族の会 理事長の大山 有子氏、及び副理事長の佐藤 亜実氏にご登壇いただきました。
大山 有子氏
佐藤 亜実氏
最初に大山氏より、SMAは進行性の希少疾患であり、重症型の生後2歳未満の死亡率が約90%と高いことが紹介されました。一方、2017年以降は核酸医薬、遺伝子治療薬などの革新的新薬が登場し、症状の劇的な改善が可能になったため、早期診断・早期治療が必須の時代になったと説明。患者会として、新薬承認や新生児マススクリーニングの公費化に向けた活動についてお話しいただきました。
続いて佐藤氏からは、5年前にご子息が遺伝子治療を受けた具体的な経験が語られました。出生直後から呼吸障害があり、新生児集中治療室に入院したものの、原因が分からず、不安な日々を過ごされたこと、生後4週5日目に遺伝子検査でSMAと診断され、核酸医薬で呼吸状態が改善するも、肺炎を機に気管切開を必要となったことなど、治療を開始した当時のご子息のケアの詳細や、治療後のリハビリ、フォローアップの必要性についても言及いただきました。治療から5年後の今は、人工呼吸器を外して遊びや活動に参加できるまで回復されていますが、「もし生まれてすぐに診断され、あと2〜3週間早く治療ができていたら気管切開にはならなかったかもしれない」との率直な思いを述べられ、早期診断・早期治療の重要性を訴えられました。
講演3
「政策への期待―共に創る未来に向けて」をテーマに、日本医療政策機構 マネージャーの河野 結氏にご登壇いただきました。
河野 結氏
日本医療政策機構 (以下、HGPI)は、市民主体の医療政策実現を目指す非営利の医療政策シンクタンクです。河野氏は難病領域の課題とその解決に向けた取り組みを紹介されました。
都道府県や市が設置する難病対策地域協議会においては、患者・家族の参画が限定的と指摘され、具体的な指針に基づく活動の充実や、国際連携の必要性について述べられました。HGPIの活動事例として、オンラインの活用や新生児を対象としたゲノム医療の推進に関するパブリックコメントの提出を挙げ、さらに患者・家族や行政などの協働を促す情報交流プラットフォーム「J-PEP」の設置について紹介されました。
パネルディスカッション
パネルディスカッションでは、CSRプロジェクト代表理事・IfNH委員である桜井 なおみ氏をモデレーターに、講演1演者の小﨑氏、一般社団法人 日本難病・疾病団体協議会 (以下、JPA) 代表理事・IfNH委員である大黒 宏司氏、及びアレクシオンファーマ合同会社(以下、アレクシオン)社長の濱村 美砂子氏が参加し、議論が交わされました。
<発症から確定診断までの期間「診断ラグ」をどう短縮するか>
最初に、桜井氏から、「アレクシオンとJMDC社による難病患者の診断ラグに関する調査結果 (リンク先)」を紹介。難病患者は発症から確定診断まで平均3.4年、176万円 (一般患者の3.4倍)かかる等のデータを示され、どう短縮していくかの問題提起がなされました。
難病・希少疾患は患者数が少ないため、まとまった情報が乏しいことが課題の1つとして取り上げられました。2025年5月にアレクシオンが公表した「希少疾患白書 (リンク先)」やJPAのホームページにある希少疾患交流情報サイト(通称「難コミュ」 (リンク先))が、有意義な情報源として紹介され、難病領域の課題解決には疾患横断的な視点の重要性が共有されました。
また、大黒氏からは、生まれて症状が発症してから診断までに約30年かかったご家族の事例が紹介されました。難病には多様な症状を呈するものが多く、ゲノム検査の保険適用により診断ラグが短縮されることへの期待が示されました。さらに、適切な遺伝情報の伝達や意思決定支援等を担う遺伝カウンセラーの重要性が認識され、都市部への偏在という課題については、オンラインの活用が有効な対策として共有されました。

<「ドラッグラグ・ロス」を解消するための創薬イノベーション>
続いて、桜井氏から、適切な診断がついた後、その先の治療における「ドラッグラグ・ロス」について問題提起がなされました。90%以上の希少疾患には治療薬がなく、また、希少疾患の新薬開発 (第1相臨床試験~承認)の平均成功確率も全ての治療薬に比べて半分以下であるデータが紹介されました。
濱村氏は、希少疾患の治療薬開発が困難な要因として、患者数が少なく統計的に意義のあるデータを出すことが難しいことや、病態変化を適切に評価するアウトカム指標・バイオマーカーの未整備が開発難度を高めていることを挙げました。一方で、海外データの活用などにより日本の開発環境が改善しつつあり、加えて、リアルワールドデータ (RWD)の活用により、開発スピードが加速できる可能性も示されました。
RWDを活用し開発を早めるためには、疾患レジストリの活用が重要であるとの認識が共有されました。特に新生児・小児においては、長期間のフォローアップが重要であると同時に、レジストリの維持は医療従事者にとって負担であるため、社会全体で支えていくことが重要との考えが示されました。
最後に、「海外では治療できるが日本ではできない」事態は避けるべきであり、ゲノム検査等の最新テクノロジーを現場で活用できる体制整備と、社会全体で日本の医薬品開発を促進することの重要性が共有されました。

閉会挨拶
大黒 宏司氏
最後に、大黒 宏司氏より、開会の挨拶をいただきました。
治療薬の存在が診断ラグ短縮に寄与するとのデータ (出典:上述のアレクシオン・JMDC共同調査)に触れた上で、「診断ラグ」と「ドラッグラグ・ロス」は相互に関連する課題であると述べられ、2つの課題を解消する重要性を改めて強調されました。解決に向けては、患産学官の協働が不可欠であり、ゲノム検査等の最新テクノロジーに伴う倫理的課題も、それぞれが知恵を持ち寄り前向きに議論すれば解決できるとの想いを示されました。
今後も本シンポジウムのような議論の場が継続・拡充することへの期待を述べ、挨拶を締めくくられました。
事後アンケートの結果概要(回答者140名)
シンポジウム後のアンケートでは、全員が「内容に満足」と回答。講演内容は半数超が「初めて知る情報が多かった」としつつ、理解度は全講演でほぼ100%が「理解できた」と回答し、新たな気付きの機会となりました。
「重症新生児への全ゲノム検査の実施」および「難病治療薬開発推進のための患者データ活用」には、ほぼ100%が賛成。本テーマ「遺伝性難病における診断ラグ、ドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスの解消」に向け、これらの取り組みへの期待が明確になりました。
また、「難病への取り組みを進めるには患者・家族に限らず幅広い理解が必要か」という問いには全員が「必要」と回答。患者・産官学が連携して情報発信を続ける重要性と、診断ラグ解消・研究開発の加速への期待が多数寄せられ、開催意義を改めて確認できました。
アンケート結果の詳細は別紙を参照ください。
イベント開催概要
【名称】 Innovation for NEW HOPE シンポジウム
~新生児・小児への希望 遺伝性難病に対するゲノム検査と最先端治療~
【日時】 2025年12月16 日(火) 18時30分~20時20分
【会場】 東京都中央区日本橋室町3-2-1 日本橋室町三井タワー、およびオンラインによる配信
【主催】 Innovation for NEW HOPE(運営企業:アステラス製薬株式会社)
【協力】 アレクシオンファーマ合同会社、株式会社JMDC、特定非営利活動法人 日本医療政策機構
【問い合わせ先】Innovation for NEW HOPE 事務局(newhope-sm@astellas.com)
【登壇者プロフィール】(敬称略)
仁木 博文 衆議院議員 厚生労働副大臣 令和4年に自民党に入党し麻生派所属。令和6年に初めて自民党候補として衆議院選挙に臨み、徳島1区で3期目の当選。実家は兼業農家で、子どもの頃はよく農作業を手伝っていた。東京大学教養学部を卒業後、徳島大学医学部に入学し、その後、産婦人科医師となる。1,200件以上の出産を担当した。 地域包括ケアの中で訪問診療にも従事してきた。新型コロナ感染症のパンデミックの現状、徳島県をはじめ地方の人口減少と衰退を実感し、地方こそ日本を元気にできる原点ととらえる。人材への投資(子育てと教育)を国家が未曾有の規模で実施し、日本を健康と環境で世界をリードする国にしたいと考えている。 平成21年選挙で三度目の挑戦で、比例四国初当選。令和3年に徳島一区で2期目当選。現在3期目。令和6年11月、厚生労働副大臣に就任。令和7年10月、厚生労働副大臣に再任。 座右の銘は「一期一会」。趣味は映画観賞、 旅行、スキー。 |
森尾 友宏 Innovation for NEW HOPE委員 東京科学大学 理事・副学長(国際担当)/免疫・分子医学研究室 特別教授兼任 東京医科歯科大学小児科にて研修医としてキャリアを開始。大学院卒業後、ハーバード大学医学部・ボストン小児病院免疫学部門にて博士研究員・Instructorとして研究活動を行う。帰国後は同大学にて小児科勤務。小児科教授の他、細胞治療センター長、周産期母子医療センター長等の要職を歴任し、学長特別補佐、副学長、執行役、統合国際機構長など大学運営に関与。現在は国際担当として大学運営に関わると共に、稀少疾患・免疫異常症の基礎・応用研究と診療に従事。 専門は小児血液・腫瘍・免疫・再生医療。日本免疫学会ヒト免疫研究賞など多数の受賞歴を持つ。 |
小﨑 健次郎 慶應義塾大学医学部教授・臨床遺伝学センター長 慶應義塾大学医学部卒業後、慶應義塾大学医学部小児科学教室入局。 アメリカ合衆国カリフォルニア大学サンディエゴ校に留学(クリニカルフェロー)、ベーラー医科大学客員研究員。帰国後、慶應義塾大学医学部小児科専任講師、慶應義塾大学医学部小児科助教授を経て、慶應義塾大学医学部 臨床遺伝学センター 教授・センター長として診療・教育・研究に携わる。米国留学中に米国臨床遺伝専門医を取得。 臨床遺伝専門医・指導医、日本小児科学会 小児科専門医。現在、日本先天異常学会 理事長、全国遺伝子医療部門連絡会議 理事長を務めている。 |
大山 有子 一般社団法人SMA家族の会 理事長 2008年に長男が脊髄性筋萎縮症 (SMA) I型と診断。2014年「SMA(脊髄性筋萎縮症)家族の会」役員就任。2018年、同会会長就任。2025年4月に「一般社団法人SMA家族の会」として法人格を取得、理事長就任。SMA患者とその家族のQOL向上及び治療環境整備のための活動等に尽力している。 |
佐藤 亜実 一般社団法人SMA家族の会 副理事長 2018年に生まれた三男が脊髄性筋萎縮症(SMA)Ⅰ型と診断され、看護師の仕事を退職する。2020年SMA 家族の会に入会、同年三男が遺伝子治療を受ける。2021年チームいっちに(役員外活動)に参加、2022年役員に就任する。SMAの疾患啓発や新生児マススクリーニングの全国公費実現を目標に活動している。 |
河野 結 特定非営利活動法人 日本医療政策機構 マネージャー シドニー大学大学院医療政策学修士課程修了。修了後、日本医療政策機構に参画。薬剤耐性(AMR:Antimicrobial Resistance)や予防接種・ワクチン政策から、非感染性疾患(NCDs:Non-Communicable Diseases)、難病・希少疾患、患者当事者支援に関する事業まで幅広く担当。担当事業等を取り巻く国内外の政策課題の調査分析や会合の企画運営に従事。広報・アウトリーチ活動やアドボカシー活動等にも取り組む。 |
桜井 なおみ |
大黒 宏司 Innovation for NEW HOPE委員 一般社団法人 日本難病・疾病団体協議会 代表理事 大阪府堺市在住。 1999年に膠原病の中の「混合性結合組織病(MCTD)」を発症。 一般社団法人全国膠原病友の会常務理事、大阪難病相談支援センターのセンター長を務める他、2025年5月から一般社団法人日本難病・疾病団体協議会の代表理事に就任。理学療法士、社会福祉士。 |
濱村 美砂子 アレクシオンファーマ合同会社 社長 武田薬品工業株式会社にて、R&D、ポートフォリオマネジメント(米国勤務)に従事。同社Japan Pharma Business Unit (JPBU) 事業開発部長、JPBU神戸支店長を経て、2019年武田薬品のShire社統合以来、JPBU希少疾患事業部・事業部長を担う。また、2022年には日本製薬(血漿分画製剤事業)の統合に伴い希少疾患事業部を拡大し、2024年まで事業部長を務める。「日本における希少疾患の課題」(白書)を作成し、診断コンソーシアムや患者サポートプログラムの立ち上げ等に尽力した。2024年7月にアレクシオンファーマ合同会社に入社し、2025年1月1日付で社長就任、現在に至る。 京都大学薬学部を卒業後、順天堂大学大学院医学研究科博士課程を修了。医学博士、MBA |
よろしければSNS等で大切な方にご共有いただけると嬉しいです。
公式Xアカウントもぜひフォローください。








